2009年、北海道積丹岳で遭難した男性が、救助活動中に滑落し凍死した事故をめぐり、男性の両親が北海道に対し約8600万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁が1800万円の賠償を命じた2審判決が確定しました。
長く争われた裁判に決着がつき、結局警察の救助活動に過失を認めたこととなりました。
この判決は極めて異例!
ネットでは、
「これではだれも救助に行きたくなくなる」
「山岳救助も命がけなのに、登山するのは自己責任でしょう」
と言った原告側を批判する内容の意見が飛び交っています。
しかしところは最高裁。安易に判決を下したわけではなかろうに、何か過失と認めざるを得ない理由があったのではないか?
調べると、ああ・・なるほど。親としては納得のいかない救助活動が行われた状況が見えてきました。
山岳救助に過失で賠償確定!積丹岳藤原隆一さんの両親が訴えた理由!
まず事故の経緯を振り返りたいと思います。
経緯
2009年1月31日 札幌市の山崎隆一さん(当時38歳)はスノーボードをするために友人2人と積丹岳(1,255ⅿ)へ入山します。
その日の午後、山崎さんは友人とはぐれて道に迷い、山頂付近でビパークすることを決めます。
(ビパークとは、登山やキャンプなどにおいて緊急的に野営することを指します。)
この間、山崎さんは友人を介し警察にGPSの位置を知らせていました。
後からわかるのですが、この時、警察がGPSの位置を誤って計測し、約400ⅿ以上も間違ってしまい、結果警察は、2時間以上もビパークとは全く異なる場所を捜索することとなります。
2月1日早朝より北海道警察の山岳救助隊は捜索を開始。男性が発見されたのは、正午ごろでした。
男性は低体温から意識がもうろうとしており、救助隊員が男性を抱えて下山していたところ、雪庇を踏み抜き、山崎さんと隊員3名は斜面を約200ⅿ滑落していまいます。
救助隊員は男性を発見し、ストレッチャー(ソリ)に固定し崖の上へ引き上げようと試みましたが、寒さと長びく救助活動から疲労し隊員が交代するために、ハイマツの木にストレッチャーを固定します。
この間、だれもストレチャーの固定のために人員が配置されることはありませんでした。
結果、ハイマツが折れストレッチャーがさらに下方に滑って行き、山崎さんは行方が分からなくなってしまいます。
悪天候で雪崩の危険性もあり、救助隊は捜索を断念、翌2日の朝、山崎さんはがけ下標高約1000ⅿ付近でストレッチャーに固定された状態で凍死しているところを発見されました。
雪庇とは
雪庇ってあまり聞きなれない言葉だと思いますので、ここで簡単に説明すると、
山の尾根の風下がわに、庇(ひさし)のようにせり出した積雪。
雪庇を踏み抜くとは、あるはずの地面がなく、踏み出した足が着地せず、バランスを崩してしまうことを言います。
雪庇を踏み抜いて滑落することは珍しくなく、雪山では十分注意が必要となるのは想像に難くありません。
とはいっても、悪天候で雪山という悪条件の中での救出作業において、無理をして2次被害が起きることは絶対に防ぐ必要があります。
両親にとっては大事な息子が救出されなかったことは悔しいことかもしれませんが、
こういった状況で救出することができなかったことは仕方がなかったとは考えられなかったのでしょうか・・・
原告側山崎さんの両親の訴え
この度の救助隊は,最低限必要な装備すら備えていませんでした。ビバーク用のツェルトやストーブを持たず,ロープは50メートルの長さのものが1本のみで,安全確保に必要なピッケルも1人しか持っていませんでした。そのような状況を知り,こんな装備で何をしに行ったのかと怒りがこみ上げてきます。また,冬山での救助は,一刻も早く現場に到達すべきなのにもかかわらず,せっかく隆一が知らせたGPSのポイントとは違うポイントを目指して捜索した為に,ポイントの捜索開始から発見までに,2時間5分もかかっています。そして,せっかく生存発見されたのに,低体温症に対する警戒もせず,体が温まるからと,両肩を支えて700~800メートル下の雪上車まで歩いて下山を始め,10分後に,素人でさえ警戒する雪庇を踏み抜いて滑落したのです。ルート旗に従って下山するべきだったのに,とてもプロとは言えぬ行動です。さらに,200メートル下で発見された隆一を,レスキューそりに乗せてロープでしっかり縛り付け,3名の隊員で引き上げる途中,山での常識である3点確保も準備不足で出来ぬまま,そりをハイマツの枝に結びつけ,隊員の交替のために全員がそりを離れました。その10分後の13時50分,枝が折れてそりが滑り落ち,視界から消えたというのです。膝までの新雪で,そり跡もはっきり残っていたのに,救助隊員は,追尾もせず,目視しても見えないからと尾根に戻り,およそ30分後の14時19分には捜索を中止して,救助隊員だけで休憩所まで下山したのです。隆一は,見捨てられ,見殺しにされたと行っても過言ではないと思っています。これが,今回の積丹岳の救助の実態です。隆一は,冬山でのスノーボードの時は,皆の安全にも気を配っていました。その隆一が,2月2日の朝,待ちに待った救助隊が来て,これで助かると思ったのもつかの間で,滑落の後は,がんじがらめで身動きもできぬ状況と厳しい寒さの中で,1人死の時を迎えた隆一の恐怖と悲しみ,悔しさを思うと,身を切られるように辛く,あまりにも悲しくて,胸が張り裂ける思いです。
これが本当であるなら、
まさに助かるはずの人が助からなかったと言わざるを得ません。
確かに、疲労困憊した中で、2度目に滑落して見失ったストレッチャーを探しに行くことは、さらなる被害をうむ可能性もあり、追尾することが最善だったとは言えないと思うのですが、
それにしても、準備不足や、知識不足は過失によるものと言えます!
そして、悲しいことに、山崎さんは結納を控えていました。
山崎隆一さんは結納を控えていた
皆さんのかけがえのない家族や友人が遭難したとして,今回のような救助活動では誰もが納得できないと思います。たとえ賠償金をいただいても,隆一は戻りません。損害賠償請求訴訟という方法をとってはいますが,できることなら,徹底した業務改善命令を望んでいます。元気いっぱいのスポーツマンだった私たちの長男は,生還を信じてレスキューを待ち,せっかく生存救助されながら,そして,4日後には,あんなに待ち望んでいた婚約者との結納を控えていましたのに,理不尽にもその前途を断たれました。隆一と私たち家族,そして残された婚約者の無念と悲しみは,いつまでも計り知れません。
「北海道警察の山岳救助に対する根本的な認識とプロ意識の欠如であり、この組織を決して許すことはできません。組織された山岳会に属さない一般の登山者が山で危険に直面した場合には、110番、119番が頼りです。今回の様なレスキューでは、全く当てに出来ません。次の犠牲者が出る前に、山岳救助隊を根本から見直し、富山の山岳救助隊にも劣らぬ優秀な救助隊を目指して改善されることを願って止みません。この思いを込めて、今回、提訴に踏み切りました」
許すことができない・・
訴えた理由がわかるような気がしました・・
北海道警察の主張
「山岳遭難救助活動は、専ら警察の任意すなわち裁量により行なわれるものである以上、出動の要請を受けた警察が、これに応じて出動しあるいは救助をしなければならない法的義務を、負うものではない」
これをみると警察の言うこともわかるんですが、
でももし、十分に準備ができていれば、GPSの計測が間違っていなければ、きっと両親がここまで悔しい思いをすることもなかったのではないかと思います。
裁判の経過
一審では、男性の登山における判断ミスも死亡に繋がったとされ、
8600万円の賠償金を請求しましたが、山崎さん側に上記8割の過失があったとして、減額され1200万円の「支払いが命じられました。
その後控訴、2審では札幌高裁で2015年3月に判決が言い渡され、過失が7割に変更、賠償額は1800万円に増額されました。
北海道警察はそれを不服とし上告していましたが、この度最高裁でそれを退ける判決が確定しました。
まとめ
2009年に起きた雪山での山岳救助において、警察側の過失をみとめ、賠償を命じる判決が確定しました。
自然の中で起きた事故であり、過失と確定されると今後の捜索活動に大きく影響が及ぶと考えられるこの裁判。多くの人が注目する中で、原告側の遺族の主張が認めらることになり、世間で反響を呼んでいます。
私も雪山に行くなら自己責任、救助を責めるのはどうか、と考えましたが、調べてみると、警察側のずさんさも見えてきました。
確かに、警察側主張する「専ら警察の任意すなわち裁量により行なわれるものである以上法的義務を背負うものではない」
という言い分も全くわからないではないですが、山岳救助というのであれば、最低限の備えはすべき。
GPSの見誤りも然り、準備不足も然り。やはりそれはおかしい!
救助する側が命がけっていうのはわかっているけど、それでは死んだ家族は納得できないです。。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
あなたに届けるピンフルエンサー!
【ソース: 積丹岳の遭難事故で死亡した藤原隆一さん、積丹岳遭難事故裁判を追う】