京大病院で処方された高濃度のセレン製剤を注射した女性が死亡するという事故が起こりました。
指示されたよりも高濃度のセレン製剤が点滴されたことが死亡の原因となったようです。
セレン製剤ってあまり聞きなれないものですが、どのような人に使われるものなのでしょうか?
セレン製剤の点滴後に死亡
事故をまとめます。
8月28日に薬剤師二人がセレン製剤を調剤した
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9月26日夕方、セレン製剤を処方された女性が自宅でセレン製剤を点滴した(点滴は週1回自宅で行っていた)
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夜間に背中の痛みを訴える。
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翌9月27日朝、処方元の京大病院を受診、CT検査を実施したが異常は見当たらず数時間後に女性は死亡した。
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病院に残っていたセレン製剤を調査したところ、医師の指示よりもセレン濃度が738倍高いものであったことが判明。
別の10代男性患者は、点滴の色が変わったと異変を指摘し、調査中であった。
事件なのか?事故なのか?
病院は、製剤を調剤した病院側の過失の可能性が高いとみています。
同病院は京都府警に届け、調査委員会を設けセレン製剤を作る工程や管理方法について検証していくと発表しています。
薬剤師の過失?
薬剤師二人により調剤しているにもかかわらず、処方箋とは異なる濃度の製剤が提供されてしまったことに疑問を感じずにはいられません。
また、2倍や3倍、いえ、10倍でもおかしいですが、738倍はあまりにも高過ぎます。
しかもセレンは毒物です。
取り扱いも他の薬品とは異なり、保管場所も他の者とは区別されてあるはずです。
2人で調剤したのは確認のためと思われますが、慎重を要する毒物指定のセレンを調剤する際の手順はどのようなものだったのでしょうか・・
今後調査が進められて明らかになっていくものと思われます・・
セレンについて
セレンは、1817年に発見された元素で、古くから毒性の強い元素として知られていました。
しかし最近になって人にとって必須の微量元素であることが認識されるようになりました。
セレンの特徴
- 毒性が強く、必要量と中毒量の差がとても小さい
- セレンは藻類、魚介類、肉類、卵黄に豊富に含まれていて通常の食事で不足することはない
- 食物に含まれたセレンの多くはタンパク質と同時に吸収されると考えられ、尿中に排泄される
通常の食事で不足することはないとのことですが、では、どのような人にセレン製剤が必要なのでしょうか。
セレン製剤を必要とする人とは?
Wikipediaのセレン欠乏症を見ると、
消化器バイパス手術を受けて高カロリー輸液を受けている重篤な腸機能免疫不全の患者や90歳以上の高齢者でセレン欠乏症は起こり得る。
とのことです。
死亡した女性は60代ですので、後者は当てはまらず、前者のような場合が考えられます。
セレン不足になると
セレン不足になると、過酸化物による細胞障害がおこると考えられており、心筋壊死を引き起こしたり、軟骨組織の変性と壊死を引き起こす委縮をもたらしたり、過労、精神の減退、甲状腺腫、甲状腺機能の低下などを引き起こす可能性があり、場合によっては死をもたらすこともあります。
また、セレン含有量の少ない食生活により、がんのリスクが高まることも示唆されています。
では、反対に過剰摂取の場合は?
セレンの過剰摂取
セレンは何度も言うように毒物に指定されているほど毒性の高いものです。
過剰に摂取することで、
- 爪の変形や脱毛
- 胃腸障害
- 下痢
- 疲労感
- 焦燥感
- 抹消神経障害
- 皮膚症状
そして、セレンをグラム単位で摂取すると
- 重度の胃腸障害
- 神経障害
- 心筋梗塞
- 急性の呼吸困難
- 腎不全
などを引き起こします。
今回1ml中4万1700マイクログラムのセレンが含有されていました。
1ml中0.0417グラムとなり、点滴が100mlだったとすると4.17グラムのセレンが点滴中に入っていたことになります。
(あくまでも個人の計算です)
死亡された女性は背中の痛みを訴えておられますが。もしかしたら心筋梗塞だったのかもしれません・・
セレンはサプリメントも出回っていますが、必要量と中毒量の差が小さいため、安易に摂取することは控えた方が良さそうです。